大阪地方裁判所 平成7年(わ)2040号 判決 1995年11月07日
裁判所書記官
黒正三
本籍
宮崎県西臼杵郡高千穂町大字三田井六六番地一
住居
大阪府交野市星田西三丁目二五番四号
型枠工事業
奈須隆
昭和一四年三月二八日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官仁田裕也出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役二年及び罰金七〇〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判の確定した日から四年間右懲役刑を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、大阪府枚方市松丘町二〇番一八号において、「奈須組」の名称で型枠工事業を営むものであるが、自己の所得税を免れようと企て、
第一 平成二年分の総所得金額が一億七四八五万四五二一円であった(別紙1の1の総所得金額計算書参照)のにもかかわらず、架空の外注費を計上するなどの行為により、その所得の一部を秘匿した上、平成三年三月一三日、大阪府枚方市大垣内町二丁目九番九号所在の所轄枚方税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が二六六八万八三〇八円で、これに対する所得税額が九〇六万一五〇〇円(申告書は誤って八八八万六五〇〇円と記載)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額八三一四万五〇〇〇円との差額七四〇八万三五〇〇円(別紙2の税額計算書参照)を免れ
第二 平成三年分の総所得金額が二億九九四八万八六六八円であった(別紙1の2の総所得金額計算書参照)のにもかかわらず、前同様の行為により、その所得の一部を秘匿した上、平成四年三月一一日、前記枚方税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が三一八八万三九四〇円で、これに対する所得税額が一一六五万九五〇〇円(申告書は誤って一一四八万四五〇〇円と記載)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億四五四六万一五〇〇円との差額一億三三八〇万二〇〇〇円(別紙2の税額計算書参照)を免れ、
第三 平成四年分の総所得金額が二億〇九七一万五一〇一円であった(別紙1の3の総所得金額計算書参照)のにもかかわらず、前同様の行為により、その所得の一部を秘匿した上、平成五年三月一二日、前記枚方税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が二三〇一万七七二二円で、これに対する所得税額が七二二万五五〇〇円(申告書は誤って七〇五万〇五〇〇円と記載)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億〇〇五七万四五〇〇円との差額九三三四万九〇〇〇円(別紙2の税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
注・以下において証拠中、末尾の括弧内に記載した漢数字は、証拠等関係カード(請求者等検察官)の証拠請求番号を示している。
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書(三二)
一 田中栄子の検察官に対する供述調書(三一)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書一六通(記録第三二-一(一〇)、同第三二-二(一一)、同第三二-三(一二)、同第三二-四(一三)、同第三二-五(一四)、同第三二-六(一五)、同第三二-七(一六)、同第三二-八(一七)、同第三二-九(一八)、同第三二-一〇(一九)、同三二-一一(二〇)、同第三二-一九(二一)、同第三二-一三(二三)、同第三二-一四(二四)、同第三二-一五(二五)、同第三二-一六(二六)
一 大蔵事務官作成の現金預金有価証券等現在高確認書二通(二九、三〇)
一 大阪国税局収税官吏作成の「所轄税務署の所在地について」と題する書面(九)
判示第一の事実について
一 大蔵事務官作成の証明書(平成三年三月一三日に申告した所得税の確定申告書写についてもの)(五)
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成二年一月一日から同年一二月三一日までのもの)(二)
判示第二の事実について
一 大蔵事務官作成の証明書(平成四年三月一一日に申告した所得税の確定申告書写についてもの)(七)
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成三年一月一日から同年一二月三一日までのもの)(三)
判示第三の事実について
一 大蔵事務官作成の証明書(平成五年三月一二日に申告した所得税の確定申告書写についてもの)(八)
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成四年一月一日から同年一二月三一日までのもの)(四)
(法令の適用)
被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれについても、所定刑中懲役及び罰金刑の併科を選択し、かつ、情状により同条二項を適用して罰金の額を免れた所得税の額以下とし、以上は平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年及び罰金七〇〇〇万円に処することとし、同法一八条により、右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から四年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は、型枠工事業を営む被告人において、平成二年一月から同四年一二月までの三年度にわたり、合計三億〇一二三万円余もの所得税をほ脱したという事案であり、ほ脱額自体が高額であるうえ、ほ脱率も三年度全体で約九一パーセントと著しく高く、被告人の行為は国家の課税権を甚だしく侵害するものと評価せざるを得ない。また、ほ脱の方法も、取引先に虚偽の請求書や領収証を作成させて架空仕入を計上したり、かつて在籍していた職人の印鑑を利用して虚偽の領収証を作成して架空外注費を計上したりすることで所得を秘匿していたものであり、その犯行態様は悪質かつ巧妙で、犯情には芳しからざるものがあるというべきである。
また、被告人が本件犯行に至った背景には、かつて不渡手形をつかまされ、倒産寸前にまで追いやられた経験があることから、これに備えるために本件に及んだとの事情が窺われるものの、他方では、被告人に子供がなく、老後に備えるためには資金の蓄積が必要との判断も本件動機の一因をなしていることが認められるのであり、必ずしもこれを被告人に有利にのみ斟酌することはできない。
しかしながら、被告人は本件摘発後、事実関係を素直に認めるとともに、本件ほ脱について修正申告を行い、所得税本税全額と付帯税の一部の納付を済ませており、真摯な反省の態度が認められるところである。
そこで、被告人に前科のないことなど、諸般の事情をも総合考慮して主文掲記のとおり量刑し、懲役刑については、その執行を猶予することとした次第である。
(求刑懲役二年及び罰金九〇〇〇万円)
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 石井俊和)
別紙1の1
総所得金額計算書
<省略>
修正損益計算書
<省略>
別紙1の2
総所得金額計算書
<省略>
修正損益計算書
<省略>
別紙1の3
総所得金額計算書
<省略>
総所得金額計算書
<省略>
別紙2
税額計算書
<省略>